【ひきこもり問題の現状】

 

①「8050問題」という新語から理解する

数年前に生まれた言葉に「80・50問題」というものがあります。

これは長期にわたりひきこもっている人が50代を過ぎ、その親が80代を過ぎ、その該当者は相当数いるという社会問題になっていることから生まれた言葉です。

「80・50問題」が社会問題になってからはマスコミやテレビ番組でも取り上げられるようになりました。一方、内閣府におけるひきこもりの調査は平成21年度と27年度に行われたきりでした。平成27年度の調査では、ひきこもりはおよそ10万人いるのではないかと報告されましたが、ひきこもりが家族にいてもそれを申告しない家庭が多いことから、その実数は未だに推定の域を出ません。

 

厚生労働省「ひきこもり施策について」

https://www.mhlw.go.jp/seisaku/2010/02/02.html

 

なお、文部科学省の設定した定義では、ひきこもりを「準ひきこもり」と「狭義のひきこもり」とに分けています。

「準ひきこもり」とは、ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事の時だけ外出する人と定義しています。これは46.0万人と推定されています。

「狭義のひきこもり」には3種類あって、1)ふだんは家にいるが近所のコンビニなどには出かける・15.3万人 2)自室からは出るが家からは出ない・3.5万人

3)自室からほとんど出ない・4.7万人 と推定されています。

平成22年の文部科学省の調査では「準ひきこもり」と「狭義のひきこもり」を合計すると69.6万人となりますが、これは40歳未満の調査結果です。令和元年に内閣府では40~64歳のひきこもりが推計61万3千人いると発表しましたので、全体では130万人ほどのひきこもりがいると推定されます。

 

40歳から64歳の調査がはじめて行われた平成30年度

 

8050問題」が社会問題となってから、高齢のひきこもりが注目されるようになり、平成30年度にはじめて高齢のひきこもりの調査が行われました。

これは全国にひきこもりが何人いるかという調査ではなく、全国5000人(ひきこもりの有無を取り混ぜたランダムな人々)にアンケート調査を施行したというものです。この調査により40歳以上のひきこもりの状況が少しではありますが浮き彫りになりました。

調査結果から、40代は就職氷河期と言われた時代背景の影響が見られ、就活中にひきこもりが始まったという例が目立ちました。

また、40歳~64歳のひきこもりのきっかけとなった理由で一番多かったのが「退職したこと」であることがわかりました。

経済的には、家の生計を立てているのは父母が34%、自身が30%、配偶者が17%で、生活保護は9%でした。

総じて40歳~64歳のひきこもりは、不登校や経験のなさが主たる原因でないことがわかります。それに対して40歳未満のひきこもりは、不登校経験がある人の比率が高い(3割程度)と言われていますので、年代によるひきこもりの原因には違いが生じています。ただ、これは高齢者ほど不登校が許されない時代を生きていたので、彼らの学生時代の不登校は現在と比べ圧倒的に少なかったからだと考えられます。注目すべきは不登校経験の有無ではなく、就職を経験してもひきこもりは起こるということにあるでしょう。

また、この調査で注目に値するのが、「悩み事を誰に相談するか」という質問の答えです。「誰にも相談しない」という回答が4割を超えました。そして相談しない理由が「しても解決できないと思う」「自分のことを知られたくない」ということでした。40歳以上のひきこもり世代は、相談できるのが医療機関しかなかったので、医療以外に相談場所が増えた現ひきこもり世代が相談する機会を得ることを願うばかりです。

 

内閣府ひきこもり15歳~39歳の調査

https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/hikikomori/pdf_index.html

 

内閣府ひきこもり40歳~64歳の調査

https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/life/h30/pdf-index.html

 

 

③「80・50問題」の反省から考える

 

40歳未満のひきこもりと40歳以上のひきこもりの原因に違いはあるのでしょうか。また、ひきこもりは増えているのでしょうか。

答えは「昔からひきこもりはいた」ということに尽きるのではないでしょうか。

うつや発達障害など、時代背景に応じて増減していると言われる概念があります。所説ありますが、ひきこもりはどうなのでしょうか。そもそもひきこもりは病気ではありませんので、うつや発達障害と比べること自体間違っていますが、調査の結果から、昔からひきこもりはいたということは明らかです。

つまり、ひきこもりという概念は決して新しいものではなく、昔からあった事象と捉えることができるので、40歳~64歳のひきこもりの反省から若年層のひきこもり改善の方向性を模索することが可能であると考えられます。

 

この調査はたった5000人のアンケート調査です。ひきこもり状況が全て正確に反映されているわけではありません。しかし以下のような事項が報告されました。

 

・彼らはそれほど相談機関に相談したいと思っていない。

・相談しないのは、しても解決できると思わないから。

・ひきこもりのきっかけは退職が多い(学生時代ではない)。

・ひきこもりでない人よりテレビも見ないしゲームもしないしネットも見ない。

40歳以前よりも家族から口出しされたくないという思いが強くなる。

・ひきこもりでない人のほうが仕事をしなくてもいいならしたくないと思っている。

 

ひきこもりが長い人は、働き続けている人より「仕事していないといけない」という信念が強く、ものごとへの興味や関心が薄くなっているという傾向にあるようです。

ものごとへの興味や関心が薄くなると仕事を探して仕事に打ち込むという作業はとても難しくなりますので、この矛盾をどうにかして断ち切り、好循環へと導く必要があります。

 

④ひきこもりにみられるパーソナリティー

 

ひきこもりという概念はもとより、ひきこもりになりやすいパーソナリティー(性質)というのはあるのでしょうか。

不登校やひきこもりの当事者から話を聞くと、ひきこもった理由として「人間関係」や「コミュニケーションが苦手」という言葉がよく聞かれます。だからといって彼らがひきこもった理由が「コミュ障」だからとは限りません。これはひきこもった当事者が自己評価しているにすぎませんが、実際は以下のことがらがひきこもりになりがちなパーソナリティーとして考えられます。

 

●ずっと「いい子」だったので反抗や爆発の経験がない

 

●親に反論できず、親に何を言っても無駄と思ってきた

 

●親の理想が確固としていて、子どもの能力と関係なく親による目標設定(人生設計)がされている

 

●いじめられた経験など、過去にトラウマになるほどの嫌な経験がある

 

●授業が理解できず、学校にいてもわからないことが多く苦痛を感じていた

 

●子どもの頃から何も問題なく過ごしてきたが、職場で突然予想外のことが起こり適応できなくなった

 

●昔と今の自分が別人のように変わってしまったと感じ、元に戻れず焦っている

 

●うつで休職したつもりが、期限を過ぎても戻れる気がしなくなった

 

これらは数ある理由の一部でしかありませんが、このような体験があってひきこもる人たちが多いようです。

それぞれに「理由」があると思います。しかし、誰にでも共通する「原因」はないようです。親の育て方に問題があるかといえば、親子関係に問題がないケースもありますし、不登校があったらひきこもるかというとそうとも限りません(とはいえ、ひきこもりの多くが不登校を経験しているのも事実ですが)。ですから「原因」を突き止めても意味がありません。

それでは問題を解決するために必要なものとは何か。

それは自然発生的に生きる活力を見つけることです。

親が声のかけ方を変えることも、当事者の生活環境を変えることも必要不可欠ですが、一番必要なのは、当事者本人が「自然発生的に新しいことを発見すること」なのです。